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プロローグ 人間の視覚は、ごく短期の過去記憶と未来推測が影響しあいながら"現在シーン"を認識している。フォーカスや露光を例にとれば、多重レイヤーの総体が一枚の絵をかたち作っているといえるだろう。光量的な観点では暗部と明部を別々に認識しながら脳内で統合させている。この成果は途方もないダイナミックレンジの獲得であり、現在のカメラには求められない能力だ。また、人間のフォーカス能力は意識と連動していて、視線の行くところにしかピントが合わない。しかし記憶の中の映像はパンフォーカス(万遍なくピントが合った状態)だったりすることもある。

しかしながら、機械(カメラ)が感じる画像はある種の潔さがある。表現手法としては限られた器だからこそ、本質が宿るという考え方もある。自然界の光彩から受ける豊穣さを1枚の写真のなかに封じ込める作法はいろいろあっていいと思う。カメラが感じる明と暗の限界。階調の連続あるいは不連続性。フォーカス(シャープ)のリミット。色彩のリアル感。これらの限界を考慮しつつ再生のキャンバス(モニター)に描くというのが、ぼくの作法ということになるのかもしれない。

このページは、幻聴日記に掲載したトピックスを統合し、大幅に加筆・修正したものです。


モニターで見る
写真は偽物か?
ポジフィルムをライトボックスでチェックする。グラフィックデザインという仕事は、この作業に多くの時間を費やす。適切な指示をして印刷所に送るわけだが、校正刷りを見てガッカリすることが多い。ポジフィルムを透過光で見たときの"輝き"が得られず、光が死んでいる状態。いくら緻密な製版をしたところで、"紙の白"以上の明るさは得られるはずもないからだ。いっぽう、印画紙へのプリントは階調の細やかさと粒状性で印刷を凌駕するが、輝き感でいえば透過光のダイナミックレンジにはかなわない。

パソコン上で写真のような自然画を自由に扱えるようになり、モニター画面のクオリティが不満のないレベルに達したのはつい最近のことだけれど、透過光でポジを見たときのトキメキが少しだけ復活したと思った。たいていの写真家はウエッブの写真なんて"仮の姿"であって、プリントしたものこそが正しい写真であるという。しかし、それは間違った思い込みであると、印刷に長年関わってきたぼくが断言する(笑)。もちろん印刷もプリントも否定するものではない。光の無限に至るダイナミックレンジを考えれば紙の反射もモニターの発光も有限には違いないし、手に伝わる質感はモニターでは得られるはずもない。

というわけで、モニター(ディスプレイ)表現に特化したデジタル画像調整手法を、もっとも基本的な画像ツールであるPhotoshopCS2の操作を例に公開しようと思った。もちろん、当方のごくローカルなハウスルールでしかないことはいうまでもないが。


アプリケーション Photoshopの初代ヴァージョンの日本語版が登場したのは1991年の春で、英語版から半年以上遅れてリリースされたが、この日本語版で画期的だったのはEPSONのA4カラースキャナーGT4000の入力プラグインが装備されていたことだ。コンシュマーレベルではこれにより、PC上でフルカラーの写真を扱えるようになった、といっても過言ではない。写真のような自然画が扱えなくてはお絵かきソフトと変わらない。プロ用のスキャナはもちろん存在していたけれど、非常に高価で読み込みソフトだけで数十万円した時代だ。 もっとも当時のMACは搭載メモリの最大値が8MBだったので、2400/1600pxの画像を扱うのも決死の覚悟だった(笑)。部分選択の波線を形成する間にコーヒーを入れられたくらいだから・・・。デジタルカメラが登場するはるか以前の話である。

いまや一般向けのデジカメ参考書にも「ヒストグラム」「トーンカーブ」など当時の専門用語が普通に使われていて、まさに隔世の感。さまざまなパラメータを自ら設定する過程は面白いけれど、これらは求めるイメージを伝えるための一環であることを忘れないようにしないと収拾がつかなくなる。画像補正にもいろいろなレベルがあって、露光ミスを救済するための補正もあれば、カメラ自体が捉えきれなかったイメージをデータのなかから引き出すハイレベルな処理もある。

これらの調整は「撮影衝動」ともいうべきトキメキの延長上でありたいと思っている。だから机上のアイデア的画像加工はあまり好みではない。具体的には、トーンカーブ(レベル補正)、カラーバランスの微調整、リサイズとスマートシャープ、これだけだ。


次回予告 次ページからは具体的な補正テクニックを紹介します。NEXT PAGE→



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