846 Air's Edge Oneストーリー 中
 ところが、まったく鳴らない代物だった。低域の制動が効かないとか高域が明るすぎるとかは当面は許すとしても、声が不明瞭。これは致命的で、Voice of Theaterの系譜に繋がらない。ローレベルの階調云々は10年早いって感じ。うちのカミさんはフィリップス(AD9710/M)に戻せと宣う。
とかくフロントホーンはF特が暴れるからと、パラメトリックEQを入れたり、低域をソリッドステートアンプにしたマルチドライブを試みたり・・・しかし、どれも決定打にはならなかった。一時は解体して箱は燃やしてしまおうと真剣に考えた。思いとどまったのは、その重さである(笑)
で、初心に戻ってエンクロージャーの補強を行い、ウーファーマグネットの再着磁、ネットワークの再設計・・・さらに金属ホーンの支持方法を試行錯誤し、3ポイント接地のフローティングという例のない手法にたどり着いた。なんとか音楽に入り込めるようになったのは、つい4、5年前である。その頃にはパラメトリックEQもバイアンプも止めて元のシングルアンプに戻っていた。
ステレオサウンドの「レコード演奏家」の取材を受けたのはちょうどこの頃である。タイミングとしては良い時期だったと思う。この以前も以後も、はっきり言ってイマイチだった。菅野氏との対話の最後にぼくはこんなことを言った。「できれば漂うような浮遊感も出したい。いまの音ではフランス近代は無理だから・・・」それを受けて氏はこう述べて記事は終わっている。「・・・とすれば、あなたはそういう装置を選ぶのじゃないですか。でも、そうはしなかった・・・」と。
自作機器は端的にいうと、持てる技術と資金と時間のせめぎ合いだ。もちろん出したい音のイメージはある。構造や回路やパーツを選ぶ基準はまさにそこにある。しかしそれがストレートに最終的なサウンドに結びつくことは少ない。多くの場合、テイストの違いより、正しいと思うものに意識が向かうから。というと自信たっぷりに聞こえるかもしれないけれど、そうではないのだ。不安だから、とりあえず間違っていないと思われる部分で攻める。その際、テイストは眼中にはない。
あるときRogers LS3/5A用に求めたQUAD303を面白半分に繋いでみて、音の立ち方に驚いた。音楽のダイナミズムや強靱なフォースを想像以上に表現している。これで粒子の粗さがなんとかなれば・・・ここがオーディオ沼の入り口だったのかもしれない。(つづく) |