 2273 1960年のレコード屋で・・・
 旧甲州街道沿い、宿場町の面影を残した一角に「東響堂」という小さなレコード店がある。ガラス戸を引くとプラモデルの箱が積み上がった模型屋という風情なのだが、奥のカウンターの背後に天井まで届くレコード棚がある。店名のとおり本来はレコード店なのだ。
「ステレオ盤ならあるがそれでいいか?」 ロッシーニのウィリアム・テル序曲を買いに行った小学生の問いに店主が答えた。この時代、レコードの主力製品はモノラルの10インチ、7インチで、SP盤もまだ現役で売られていた。田舎の店のはなしなので都会は少し違ったが、ほぼ3年前にデビューしたステレオ盤は特別の棚に収められていた。レコードは平台の縦置き陳列ではなく棚の中に平積みされたいて、買い手が取ることはできない。
というわけで、言われるままにバンベルグ交響楽団(ジョネル・ペルレア指揮)の7インチステレオ盤を買った。家にあるのはモノラルの電蓄だったが問題なく聴くことができた。初めてのステレオレコードでいまでも10年に一回くらい聴く。かなりの名演奏で、とくに第2部の嵐、途轍もなくディープなクレッシェンドに陶酔する小学4年生(笑) |