1455 自作オーディオについて、ちょっと長い話(改訂)
 自作スピーカーシステム "AirsEdgeOne"。2年の準備期間と6か月の工作を経て1996年夏に完成したオール・ホーンローディングタイプだ。その半年後に計画を開始した管球式プリアンプ。MC型カートリッジをダイレクトに増幅するフォノイコライザーは、CR素子をDCバイアス下に置いた無帰還方式。カタチになったのは1999年の暮れであったが、メーカー製プリアンプと選手交代できたのは2003年ごろだった。トータルでこの間ほぼ10年である。寝ても覚めてもこれらの機器を考えていた。寝る前に設計図(回路図)を確認し、夢うつつの中で試行錯誤という日々だった。
もともと文系(じつはその他系)の人間だから、基礎を学ぶところから始めた。スピーカー理論、増幅回路、実装技術etc... ちょうど40代初めから50歳を超えるころまでの期間である。本来なら仕事盛りであるべき人生の重要期をオーディオ三昧で過ごした。それは後になって大いに悔むことになる。これらの機器の作成に費やした金額は軽自動車一台程度であったが、時間給で換算したらいったいどれほどのものだろう?怖いから計算しないが、ハイエンド機器を購入できる規模なのは間違いない・・・、という話ではなく(笑)この黄金期の努力を本業のデザインに振り向けていたら、ひとかどの存在になっていたのではないかと反省していたのだ。
今朝方、マッサージ椅子に体を沈めながら、グールドの「ゴールドベルグ変奏曲」を聴いていた。この数日、全体のゲイン配分を考え直し、EQ機材の最適位置を再検討したので、その成果を確認したかったのだ。普段はアナログディスクで聴くことが多いこのアルバムをCDで聴き、ほぼ理想ではないかと思えるパフォーマンスに納得した。鋭角(俊敏)でありながらしなやか(音楽の時間が繋がっている)強打鍵の浸透力と彼の呻きが違和感なく共存している。
こんな分析をしながら、あの10年のことを思っていた。失われた10年ではなかったかもしれない、と。今の体力で "AirsEdgeOne" を作る根性はないし、MT管周辺のパーツ付けをする視力にも欠ける。一方で本業のほうは問題なくで出来ているし、充実もしている。あの10年といまの10年を入れ換えただけじゃないか!当時は仕事で使えるようなデジタルカメラはなかったし・・・グールドの響きの静かな光彩とともに急に目の前が明るくなったような気がした。 |