デジタル記録と時間軸の連続性を考える。


ビリー・ホリディの微分音階


コモドア時代のビリー・ホリディの歌唱を聴いていると、 基音を中心に前後に1/8音〜1/4音くらいの幅を自在にコントロールしているようで、 それが曲のコードの色合いと符号しているような気がしてならないのです。 初期のブランズウィック時代はもっとストレートな唄い方で、先天的なものではないようです・・・。 同じような表現をする人に、キャスリン・フェリア、シャンソンのバルバラ、日本では美空ひばり、ちあきなおみ・・・ などが思いだされますが。

民族音楽では微分音階はもとより、もともとが平均律と異なるスケールで成り立っているわけで、 当然ではありますが・・・。

で、これから先を言うと、以前「CDは音階が破壊されている」といって顰蹙をかっていた アマチュア某研究家みたいになるので、ちょっと勇気がいりますが、先に述べたような現象は アナログ・ディスクの方が感じやすいというのが個人的見解(笑)です。

サンプリング

シャノンの定理では20kHzを再現するのには倍の40kHzのサンプリングで足りることになっています。 しかし、これが可能なのはごく限られた場合であって、「20kHzを再現できる」場合もあると理解したほうが自然です。 なぜなら楽音はクロックに同期して存在するのではなく、クロックの都合とは関係なく突然始まるからです。

画像処理に例えると、白地に4本の黒いラインがあるとして、これを再現できる最小解像度は8グリッド(あるいは7) ということになりますが、これはラインが等間隔で並んでいて、なおかつ位置関係がグリッドと一致していなければなりません。 ラインが不等間隔である場合はこの8倍の64グリッドくらいが最低で必要になってきます。次ページ以降で画像処理の観点からA/D変換時のプレフィルタの役割や、ポストフィルタとアナログ復元のしくみを考察いたしておりますので、あわせてご覧ください。

ランダムな音楽波形に対しては8倍程度のサンプリングでどうにか波形がとおる・・・。 新世代CDでやっと可聴範囲をカバーしたのではないかと思っています。蛇足ですが、通常のCDで再現可能な20kHz波形は正弦波のみであることは言うまでもありません。

量子化

16ビットで約65.000の階調を表現できる訳ですが、等差数列になっていることが問題です。 フルビットの出力電圧を2vとするとひとつ下のレベルで1.99997v、その下が1.99994v、この辺はいいとしても 、最小レベル0.00003vのひとつ上のレベルは倍の0.00006vです。ダイナミックにレベルが変動する音楽の弱音エリアでは、 耳(脳)は望遠レンズのようにスケーリングしますから、ここらあたりの微妙なニュアンス領域はかなり粗いステップで処理されていることになります。

オーバーサンプリング・デジタルフィルタ

このような技術はすべてトレード・オフであると思いますが、短所が言われることはあまりありません。 オーバーサンプリングというのは、超簡単に言ってしまうと、同じデータ(あるいは近似データ)を重ねずらせて、ぎざぎざを見かけ上細かくしています。 ローパスフィルタを高域にシフトして位相特性を改善するというセールストークですが、ある時点のデータを(修正したにしても) 時間軸でずらす弊害があるのではないでしょうか。
画像でも重ね合成で、レイヤーを重ねて全体として滑らかに見えるように処理することがありますが、 例外なく解像度は悪化します。

問題は高域限界ではない

現行CDフォーマットを批判するとき一般的に出てくる話は、高域限界に関するものが多いですね。新世代CDも そこら辺の問題に応えるべく開発されたと言ってもいいかもしれません。しかしながら本質は、ハイサンプリングによる 疑似連続性の確保に尽きるような気がするのです。
99年の暮れの催し(新氏の試聴会)で興味深い実験がありました。ウエスタンの594を用いた2WayスピーカシステムでSA-CDと従来CDを聴き較べるというものです。理想的な聴取位置が得られたので、注意深く聴いていましたが、あきらかにSA-CDの方が楽器のニュアンスや、微細なホールトーンがうまく再現されています。JBLの375の源流であるWE594の高域限界はおそらく10〜12kHzでしょうから、単に48kHzを再生できるといった単純な問題ではない、いま述べてきたような利点を強く印象づけられました。

というわけで、アナログディスクのアドバンテージというのは、なんといっても時間軸を途切れなく連続的にトレースしていることに尽きると思います。現時点に限れば、個人的にはややアナログの優位性を感じていますが、将来、アナログが復活するなどとは微塵も思っていません。 デジタル技術は今後も加速度的に発達するのでしょうが、技術者がアナログの利点といったものを視野に入れていないなら本質的な進歩はないような気がします。

(ここに記した内容は時代遅れの知識であったり、仮定条件が現実的ではない部分、根本的に誤っている箇所などが あるかもしれません。どうか、至らない部分をご指摘くださるようお願いします。1999.12 記)


下記のページからここへ戻る場合はブラウザの「戻る」ボタンをご使用ください。
デジタル記録とアナログ復元を考える>>>
A/D変換におけるプレフィルタの役割を考える>>>

音に関する二、三の話 NEW!
◆007 >>>

MJ97/01
マイ・リスニングルーム

◆006 >>>

以前のコラム
◆005 >>>

AUDIO & MUSIC TOP>>>