幻聴日記
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018 真夜中の女歌手 BARBARA II

元競馬場だったスペースに設けられた特設ステージ、数千人の観客の前で行われた1981年のパンタンライブ。中央にバルバラと自身が弾くピアノ、あとはマルチキーボードプレイヤーとパーカッショニストがいるだけのシンプルな舞台だ。バルバラの声は若き日の透明感、静寂感から少し後退し、ときに高音域は声帯の限界を垣間みせる。しかし聴き込んでいくと、そんなことは些細な現象に思えてきて、ただ一人のアーティストの真摯で強烈な放射力の虜になっている。
歌は、言葉と音がすべてだと思っていたけれど、それは間違いとLDの映像が教えてくれた。表現が限界に近づいているときの唇や頬や眼差しのテンション、最後のフレーズが終わるときの身体動作、すべてが連鎖して大きな表現行為になっている。このときバルバラは51才。自身を徹底的に追い込む姿勢に形容する言葉が見つからない。得難い瞬間があの場所に存在し、こうして記録として残っていることに感謝・・・。
(PENTAX*istD FA ZOOM 28-105mm F4.0-5.6IF)
2004/03/23


017 真夜中の女歌手 BARBARA I

放浪の末の、いまは死の床にいる男(じつは実父)があなたに逢いたがっている、という手紙で始まる「ナントに雨が降る」。バルバラ自作のこのうたは、たとえ歌詞がわからなくても、音楽の力が静謐の衣に包まれた彼女の心象を伝えてくる。歌は、言葉を旋律に乗せているだけじゃない、ということを改めて実感する。バルバラはレクリューズ時代に「dis,quand reviendras-tu?」というアルバムに吹き込んで以来、ACCディスク大賞の「私自身のシャンソン」や多くのコンサートで、この曲を繰りかえし記録した。とくに81年のパンタンライブの迫真のパフォーマンスは、人生の深淵で「慈しみ」の結晶を抽出したかのような光彩を放っている。
ちあきなおみの名唱「喝采」は、この「ナントに雨が降る」を下敷きに作られたと思う。似ているかどうかといった下界のはなしではなく・・・。
(PENTAX*istD FA ZOOM 28-105mm F4.0-5.6IF)
2004/03/22


016 いま「ウォークマンの修辞学」を読む

ラブ・サイケデリコ(LOVE PSYCHEDELICO)が好きだ。Kumiさんの飾らないストレートアヘッドな声、古きロックンロールのエッセンスをまぎれ込ませたシンプル&ドライのバンドサウンド。素直にかっこいいと思う。でもオーディオ的に観察すると彼らのCDの音質はプアだ。というか今のJ-POPの録音はみんな似たようなものだけど・・・じつは伏線があってそれは25年前のはなしだ。
1979年、SONYウォークマン発売。その2年後の「ウォークマンの修辞学」細川周平著(朝日出版社1981)的確で予見的な記述はいま読んでも新鮮。ウォークマンが音楽と聴き手の関係を大きく変えたと。
しかし、ヘッドフォンステレオは「聴かれ方」だけではなく、後年の音楽の作り方にも大きな影響をおよぼしたように思う。都市の喧噪が音楽のノイズフロアになり、より明快な輪郭を送り手に要求した。階調よりパルシブな破壊力が尊重され、音楽はON-OFFの符号列のように聞こえはじめた・・・と言うといかにも年寄りじみているよねえ(笑)。
で、その後のコンパクトディスクの誕生、圧縮フォーマットの台頭、という時系列は今もって興味深い。
(PENTAX*istD FA Macro 50mm F2.8)
2004/03/19


015 アナログマスター、デジタルリマスタリング II

フィルムの銀粒子は、一粒づつ解像できるわけではなく、周囲の粒子を「道連れ」というか相互に影響を与えあいながら反応する。ポジをチェックすると最暗部、最明部とも潰れているような、いないような。階調のある粒子が存在していると感じるその実体はノイズなのか。002でふれた「関連付け」に考えが行きつく。この750×500ピクセルの画像でどれだけ伝えることができるか自信はないけれど、湿気を帯びた空気の匂いがたしかに伝わって来るような気がした。
2004/03/18


014 アナログマスター、デジタルリマスタリング I

一部のニコンユーザーに「神のレンズ」と言わしめたAi180mmF2.8ED。これが手元にあったのは2週間ほど。描写能力に感嘆しながらも、この画角と重量は手持ち撮影では使いこなせないと悟ったから。この写真はこのレンズによる数少ないショットのうちの1枚で、ボディF3hp、フィルムFUJIプロビア400によるもの。もちろんポジフィルムをスキャニングした時点でデジタル画像ではあるのだけれど、フィルムの表現はなにかが違う。なんなのだろう。
2004/03/18


013 機械変換系の対称性ということ

ターンテーブルの回転力がスタイラスを揺らす。連動するコイルやマグネットが発電することで、ディスクの溝から音楽信号をとりだしている。何段階かの電気的増幅を経て、スピーカーマグネットの磁界に置かれたコイルが動き、コーンが空気を揺らし音を再生させる。ターンテーブルの回転もスピーカーの磁界も、直流バイアスのエネルギー源、などと考えつつ、再生システムはアンプを中心に置いた機械変換の対称で成立していることに気づいた。
デジタルオーディオは・・・再生の枠をこえて収音から再生にいたる大きな系、すなわち伝送・増幅系の両端に機械変換であるマイクロフォンとスピーカーを置いた、きわめてシンプルな対称系。だからとても音が良い・・・といわれる日は近いのだろうか。
(PENTAX*istD smcA 50mm F1.4)
2004/03/17




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