幻聴日記からの9章

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Photo & Text: m a c h i n i s t


Voices 01
017 BARBARA、真夜中の女歌手
放浪の末の、いまは死の床にいる男(じつは実父)があなたに逢いたがっている、という手紙で始まる「ナントに雨が降る」。バルバラ自作のこのうたは、たとえ歌詞がわからなくても、音楽の力が静謐の衣に包まれた彼女の心象を伝えてくる。歌は、言葉を旋律に乗せているだけじゃない、ということを改めて実感する。
バルバラはレクリューズ時代に「dis,quand reviendras-tu?」というアルバムに吹き込んで以来、ACCディスク大賞の「私自身のシャンソン」や多くのコンサートで、この曲を繰りかえし記録した。とくに81年のパンタンライブの迫真のパフォーマンスは、人生の深淵で「慈しみ」の結晶を抽出したかのような光彩を放っている。
ちあきなおみの名唱「喝采」は、この「ナントに雨が降る」を下敷きに作られたと思う。似ているかどうかといった下界のはなしではもちろんない。

元競馬場だったスペースに設けられた特設ステージ、数千人の観客の前で行われた1981年のパンタンライブ。中央にバルバラと自身が弾くピアノ、あとはマルチキーボードプレイヤーとパーカッショニストがいるだけのシンプルな舞台だ。バルバラの声は若き日の透明感、静寂感から少し後退し、ときに高音域は声帯の限界を垣間みせる。しかし聴き込んでいくと、そんなことは些細な現象に思えてきて、ただ一人のアーティストの真摯で強烈な放射力の虜になっている。
歌は、言葉と音がすべてだと思っていたけれど、それは間違いとLDの映像が教えてくれた。表現が限界に近づいているときの唇や頬や眼差しのテンション、最後のフレーズが終わるときの身体動作、すべてが連鎖して大きな表現行為になっている。このときバルバラは51才。自身を徹底的に追い込む姿勢に形容する言葉が見つからない。得難い瞬間があの場所に存在し、こうして記録として残っていることに感謝・・・。

1958-64年の間、バルバラはレクリューズというセーヌ左岸のキャバレーで歌っていた。59年、まだ無名に近かったころのライブ録音がフランスEMIから「barbara La chanteuse de minuit」というタイトルでCD化されている。「わたし自身のシャンソン」でその存在を世界的に認知されるのが65年。ということは、このレクリューズの客に聴かせることで自身の音楽を育んだといえるかもしれない。レクリューズでの彼女の出番は深夜の12時と決まっていたそうで、それが「真夜中の女歌手」と呼ばれる所以だ。
全曲自作でピアノ弾き唄い。歌も後年に聴かれる表現のダイナミズムを予感させるし、自身のピアノも歌と拮抗するパワーを秘めている。このCD、惜しむらくは観客のまばらな拍手を消し去っていること。この時ここに居た、いま思えば「夢の体験」をした数少ない聴き手の気配も、実は感じたかった。

017-019でバルバラのことを書いた同じころ、あるサイトが公開に向けた準備の佳境に入っていたはずだ。日本でたぶん初めてのバルバラのファンサイト「PLANETE BARBARA」の登場。だれも作らないなら、いつかは自分で作らなければ、と思っていたけれど、とても嬉しい出来事だった。継続、発展をこころから願って、エールを送りたい。ところでこのサイトのディスコグラフィでも1959年のレクリューズの拍手は後で入れられたものと記されている。CDの編集はオリジナルに戻っただけということらしい。12インチの日本盤LPでは、あの芦原英了氏もだまされたということか?(レコード芸術レビュー)。ぼくも70年代にNHK脇の川沿いのシャンソン喫茶で聴かせてもらったおり、あのささやかな聴衆の気配にコロリと行ったひとりだった。ところで本国のサイトでは「Les Amis de BARBARA」が充実しているし、見たこともないバルバラの素敵なショットがある。



262 フランス国営放送のバルバラ

1978年にNHK-TVでオンエアされた、バルバラのスタジオ収録番組。最近、あの衝撃的な感動に再び巡り会う機会があった。この時代に録音された何枚かのレコードよりはるかに声のコンディションが良く、加えて彼女が非常に麗しく映っていたのが印象的だ。 後年のパンタンライブ(018参照)などは、もっと深遠な世界を覗かせるものの、音楽的な「声」の表現力という意味で、この番組はバルバラの頂点を示しているように感じた。PLANETE BARBARA(067参照)を主催しているbruxellesさんのコメントによると、1974年に収録された「TOP a BARBARA」という番組を編集したものらしい。70年の「黒いワシ」から「愛の華」「不倫」「黒いデッサン」の延長上にこのパフォーマンスがあったということか。


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